TACOトレードとは
「TACOトレード」とは、トランプ米大統領(2025年時点での第47代大統領)の関税政策を皮肉った金融市場の造語で、「Trump Always Chickens Out(トランプはいつもビビってやめる)」の頭文字を取ったものです。以下にその詳細を解説します。
1. TACOトレードの背景
TACOトレードは、トランプ大統領の通商政策における「朝令暮改」(一貫性のない方針変更)を揶揄する言葉として、2025年5月に英紙フィナンシャル・タイムズのコラムニスト、ロバート・アームストロング氏が初めて使用しました。この理論は、トランプ氏が強硬な関税政策を発表しても、市場の反応(株価や米国債の下落など)や国際的な反発を考慮して、結局はその政策を撤回したり、関税率を下げたり、発動を延期したりする傾向を指します。投資家はこのパターンを利用して利益を得ようとする取引戦略を「TACOトレード」と呼びます。
2. TACOトレードの仕組み
TACOトレードは、トランプ氏の関税に関する発言や政策発表による市場の変動を利用した投資戦略です。以下はその典型的なパターンです:
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ステップ1: 強硬な関税発表
トランプ氏が中国やEUなどに対し、高関税(例:中国に145%、EUに50%)を課すと発表。市場は経済への悪影響を懸念し、株価や米国債、ドルが下落(「トリプル安」)。 -
ステップ2: 方針の軟化
市場の下落や相手国の反発、交渉の進展を受けて、トランプ氏が関税率を引き下げたり、発動を延期したり、場合によっては取りやめたりする(例:中国への145%関税を30%に引き下げ、EUへの50%関税を7月まで延期)。 -
ステップ3: 市場の反発
関税リスクが後退したことで、株価が急反発。特にS&P500やナスダックなどの主要指数が上昇し、投資家が「ディップ買い」(下落時に買い、反発時に売る)で利益を得る。
このパターンが繰り返されるため、投資家はトランプ氏の強硬な発言に過剰に反応せず、下落時に買いを入れる戦略を取るようになりました。金融リサーチ会社セブンズ・レポートのトム・エセイ氏は、「トランプの関税強化発表で株価が下がったら買い時」と指摘しています。
3. 具体例
以下は、2025年に報じられたTACOトレードの具体例です:
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2025年4月2日(解放の日)
トランプ氏が「相互関税」を発表し、S&P500が数日で12%以上下落。しかし、4月9日に90日間の関税停止を発表すると、市場は急反発し、20年ぶりの好成績を記録。 -
2025年5月12日
中国との貿易協定発表後、関税引き上げを90日間延期。S&P500は1%以上上昇し、4月の安値から損失を回復。 -
2025年5月23日~27日
EUへの50%関税を6月1日から課すと発表し、株価が下落。2日後の5月25日に発動を7月9日まで延期すると発表し、5月27日にS&P500が約2%反発。 -
カナダ・メキシコへの関税
25%の関税を課す大統領令に署名したが、発動前日に30日間停止を発表。カナダの報復関税や不買運動への懸念が背景とされる。
4. トランプ氏の反応
トランプ氏はTACOという言葉に対し、強い不快感を示しています。2025年5月28日の記者会見では、「TACOトレード」について問われた際に「不快な質問だ」「二度と口にするな」と激怒し、「これは交渉だ。高い関税を提示して相手を交渉の席につかせる」と主張しました。 また、ホワイトハウス高官によると、トランプ氏はこの造語を事前に知らされておらず、チームの情報提供不足にも苛立っていたと報じられています。
5. 市場への影響と投資家の反応
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市場の「免疫」
トランプ氏の強硬発言に対する市場の反応は、2025年に入って鈍化傾向にあります。投資家が「どうせ方針が変わる」と見越して動くため、関税発表による株価下落が限定的になりつつあります。 -
リスクオン戦略
TACOトレードは「ディップ買い」を助長し、個人投資家や機関投資家の間で人気。S&P500は2025年6月6日に6000を回復し、テクノロジー銘柄(例:マイクロソフト、NVIDIA)が相場を牽引。 -
批判と限界
一部の専門家は、TACOトレードが市場の不安定さを増幅させ、長期的な経済リスク(例:米中対立の先鋭化や財政赤字拡大)を軽視する傾向にあると警告。ムーディーズによる米国財政の格下げリスクも指摘されています。
6. TACOトレードの今後の展望
TACOトレードがいつまで有効かは、2025年夏以降の関税猶予期間終了後の展開次第です。トランプ氏の関税政策が交渉戦術の一環であるとしても、米中や米EUの緊張が解消されない場合、市場のボラティリティが高まる可能性があります。 また、トランプ政権の大型減税法案(財政赤字2.4兆ドル増加の試算)や対イラン政策など、関税以外の要因も市場に影響を与えると予想されます。
7. その他の関連略語
TACO以外にも、トランプ政権下の市場で使われる略語が登場しています:
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MAGA(Make America Great Again):トランプのスローガンに基づく投資ブーム(例:暗号資産やテスラ株の上昇)。
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FAFO(Fuck Around and Find Out):トランプ氏が強硬策を推し進めた場合のリスクを警告する造語。
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YOLO(You Only Live Once):仮想通貨など高リスク資産への投資を指す。
8. 結論
TACOトレードは、トランプ氏の予測可能な「強硬姿勢→軟化」のパターンを利用した短期的な投資戦略として、2025年の金融市場で注目されています。しかし、米中対立や財政リスクなど、根本的な課題が解決されない限り、市場の不安定さは続く可能性があります。投資家はTACOトレードを活用しつつ、関税以外の地政学的・経済的リスクにも注意が必要です。