万物の本質は数であるというテーゼ

moomoo証券

万物の本質は数であるというテーゼ

1. ピタゴラスが言いたかったことの本質

ピタゴラス学派が発見(あるいは再発見)したもっとも衝衝撃的な事実は、音楽の「協和音程」がシンプルな整数比で表されることでした。

  • オクターブ = 2:1
  • 完全五度 = 3:2
  • 完全四度 = 4:3

これを見て彼らは驚愕しました。「美そのものが数で説明できる」という体験です。そこからさらに、

  • 幾何学(図形の性質)も数で説明できる(ピタゴラスの定理など)
  • 天文学(天体の運動)も調和的で数的な法則に従う(「天球の音楽」)
  • さらには魂の不死や輪廻までも「数的な調和」の現れだと考えた

つまり彼らにとって「数」とは単なる量ではなく、宇宙の秩序(kosmos=美しく整ったもの)の本体そのものでした。これが「数字こそこの世の全てだ」という言葉の真意です。

2. 歴史的評価:どれだけ正しかったか

驚くべきことに、現代科学はピタゴラスの直感の多くを肯定しています。

○ 正しかった点

  • 物理学の基礎方程式はほぼすべて数学で書かれる(ニュートン、シュレーディンガー、Einsteinなど)
  • 素粒子物理学の標準模型は群論(対称性=数的な構造)で記述される
  • 量子力学の波動関数は複素数空間上のベクトル
  • DNAの構造すら数学的な対称性(回転対称性)で決まる
  • 宇宙論ではプランク長・プランク時間といった「最小の数」が存在する

ユージン・ウィグナー(1960年ノーベル物理学賞)は有名な論文 Eugene Wigner, “The Unreasonable Effectiveness of Mathematics in the Natural Sciences” (1960) で「数学が自然科学に不合理なまでに有効である」と述べ、ピタゴラス的な驚きを現代的に再現しました。

○ 限界・誤りだった点

  • 「すべてのものは整数で説明できる」と信じたため√2が有理数でない(無理数である)と判明したとき、学派内で大混乱が起きた(伝説の「ヒッパソスの悲劇」)
  • 数秘術的・神秘主義的傾向が強く、科学というより宗教に近かった
  • 物質そのものではなく「関係性・構造」が数だという現代の見方とはズレがある

3. 現代のピタゴラス主義(Mathematical Platonism)

現在でも「宇宙は根本的に数学的な構造である」という立場は生きています。

代表的な論者

  • Max Tegmark(MIT教授)
    「Our Mathematical Universe」(2014)
    → 究極の存在論的仮説(MUH: Mathematical Universe Hypothesis)
    「物理的存在とは数学的構造と同一である」と主張。
    つまり我々が「物質」だと思っているものは、実は巨大な数学的対象の自己認識に過ぎない。
  • Roger Penrose
    プラトン主義的立場を取り、数学的真理は「発見」されるもので「発明」されないと主張。

反論側(形式主義・構成主義)

  • 数学は人間の脳が作り出した有用なツールに過ぎない(Hartry Fieldら)

4. 簡潔な研究論文風まとめ(約800字相当)

タイトル:ピタゴラス主義の現代的再評価――「万物の本質は数である」はどこまで正しいか

要約

紀元前6世紀のピタゴラスが提唱した「τὰ πάντα ἐστιν ἀριθμοί」(万物の本質は数である)は、現代物理学・数学の驚異的な成功によって、神秘主義的色彩を脱して再び深刻な哲学的仮説として復活している。本稿では、ピタゴラス主義の歴史的原意、√2をめぐる危機、20世紀以降の数学の「不合理な有効性」(Wigner)、そしてTegmarkのMathematical Universe Hypothesis(MUH)を概観し、以下の結論を導く。

  1. ピタゴラス学派が発見した音楽的調和の整数比は、現代の対称性・群論へと直結する正しい直感であった。
  2. しかし「すべての数は有理数である」という教条は誤りであり、無理数・実数・複素数・超限数へと拡張が必要だった。
  3. 現代物理学の成功は、宇宙が「数的な構造そのもの」であるというピタゴラス的視点を強く支持する。
  4. ただし「数=整数」ではなく「数=数学的構造」と読み替える必要がある(広義のピタゴラス主義)。

結論

「数字こそこの世の全てだ」というピタゴラスのテーゼは、2500年後の今日、むしろより強く、より精緻な形で生き返っている。ただしそれは「整数」ではなく「数学的構造」としてである。我々が存在する宇宙が、究極的には自己認識する数学的対象に過ぎないという可能性は、もはやオカルトではなく、検討に値する科学哲学的仮説である。

(参考文献略:Wigner 1960, Tegmark 2014, Penrose “The Road to Reality” 2004 など)

最終的な一言

ピタゴラスは「正しい場所で、2000年早すぎた」のです。

現代物理学者が「宇宙は数学的に美しいから正しい理論だ」と言うとき、そこには紛れもないピタゴラスの亡魂が微笑んでいます。

ニコラ・テスラもこの世は数字でできているといったよね。

moomoo証券